『豆腐プロレス』でのヒール転身を果たした向井地美音だが、現実の彼女も「いい子」と本当の自分の境界に悩んでいた。自らグループへの愛ゆえに多くを考え、自分なりの正解を得てきた彼女が初めて直面した壁。今年の総選挙のリングで何かが証明されるかもしれない。
チョップにこめた思い
――以前、横山由依さんとともに登場して以来の登場です。今日は、その続編をやりたいなと思って。
向井地 『豆腐プロレス』のお話をしましたよね。読みました!
――ツイッターでも「今なぜ私たちがプロレスに挑戦するのか、その答えがここにあるような気がしてます」とつぶやいていただいてました。手前味噌ですが、向井地さんの魂のゴングを少しだけ打ち鳴らすことができたかな、と。
向井地 プロレスの見方やドラマに対する取り組み方が変わったと思っています。でも、私たちのインタビューの前に、(松井)珠理奈さんと棚橋弘至選手の対談が載っているじゃないですか。あのインタビューがすごくよくて。その並びで私たちの記事があると、話していることが薄くて申し訳ないなって。
――そんなことないですよ!前回の取材は、『豆腐プロレス』#4が放送された後でした。
向井地 私がまだ清純だった頃ですね。
――そうです。その後、まさか黒い舌を出すことになろうとは。
向井地 ホントですよ(笑)。ブラックべリー向井地になっちゃいました。
――それは後ほど話すとしまして、問題は#5なんですよ。本心を言えば、#5の後に取材をしたかったです。
向井地 #5というと?
――宮脇咲良さんと向井地さんによる、屋上のチョップ合戦ですね。
向井地 あー!感動の名シーンですね。
――プロレスを辞めようと道場を飛び出した向井地さんを宮脇さんが引き留めようとして、屋上で逆水平チョップを打ちながら、辞めてほしくないという思いをぶつけていましたね。向井地さんもチョップを打ち返して。
向井地 あのシーンは何度も撮り直したんです。一番感情がこもっていたし、監督さんにも「出せるところまで出せ!」って言われていたんです。私たちも追い込まれていたし、何度も撮り直しているうちに、どんどん感情が乗っていって……。私の中では1クール目のハイライトですね。
――視聴者的にもそうだと思います。
向井地 あのシーンには、友情も入っているじゃないですか。
――そうですね。「お前のことが好きだ!」って言ってるのに攻撃しているって、矛盾した行為なんですけどね。
向井地 プロレスの技を通して自分の魂を伝えるということを表したシーンですよね。
――うわ―、向井地さんはホントに勘がいいです!
向井地 よかったー、正解が出た(笑)
――その前に、坂巻流司トレーナー(今野浩喜)が錦糸町道場のメンバーに逆水平チョップを打ち込むという場面もありました。
向井地 「プロレスには本当のことしかないんだよ」っていうセリフがあったじゃないですか。それも印象的な言葉だなって思いました。私はそのシーンに参加していないんですけど、5人(宮脇、横山由依、木崎ゆりあ、加藤玲奈、古畑奈和)の間でもそうだったみたいで、何度も話題になっています。れなっち(加藤)は「アザができるくらいチョップされた」って言ってました。それだけ魂がこもった場面でした。
――そして、4月1日放送の#11からはドラマが新たなチャプターに突入し、「最強女王決定トーナメント」が開幕しました。そこで、向井地さんは驚天動地のヒールターンを果たしました。
向井地 実は、撮影開始当初から冗談交じりで監督さんに、「みーおんはいつかヒールになるかもよ」って言われていたんです。
――そうなんですか!
向井地 私も、「いやいやいゃぁ(笑)」って真面目に受け止めてなかったんですけど、ある時、「白金事務のジャージを作るからフィッティングをするよ」って言われて。「私が白金ジム?おや?」って驚いたばかりか、「工事現場同盟だよ」って言われて二重の驚きがありました(笑)。ヒールをやるにしても、錦糸町道場内での話なら、まだ想像できたんですけど、工事現場に入るのかっていうのが衝撃で。いただいた台本を読むのもすごく怖かったです。1ページずつ恐る恐る読みました。変なことさせられるんじゃないかって(笑)。そしたら案の定、さくらんぼの種を吹いたり、「舌を出してイエーイ!」とか書いてあったりして。
――キャラ変にも程がある、と。人生で一度もやったことなさそうな、ことを。
向井地 以前、ドラマ『セーラーゾンビ』でゾンビ役をやったことがあるんですけど、顔だけでいえばゾンビを超える感じですし、そこにヒールとしての行為も加わるので不安でしたね。
――でも、1月のソロコンサートで、「いい子は卒業する」という主旨の宣言をしていたじゃないですか。それと見事にリンクしますね。
向井地 そうなんです。でも、私の予想ではその宣言が反映されたのではなく、最初から決まっていたんじゃないかなって思っています。
初めての停滞
――運動神経がアレな向井地さんですが(笑)、#11の宮脇咲良戦は試合として成立しているように見えました。
向井地 そう見えましたか?咲良さんとの試合で初めてちゃんと”試合”として成立したものができたかなと思います。初期は基礎練習をいっぱいして、最近は試合の部分を集中的に練習しているんですけど、ミラノ(コレクションA.T.)先生に言われたことは理解できるようになりました。でも、私の試合は撮り方や音響でずいぶん助けてもらっているので、スタッフさんに申し訳ないです(笑)
――そこはしょうがないですよね。
向井地 迫カを出すのは難しいですけど、ヒールの演技でカバーできたらいいなと思って、頑張りました。
――前回のインタビューから2か月が経ち、その間撮影をこなしている中で、何か考えが変化した部分ってありますか?プロレスに対して、あるいはAKB48に対して、でもいいんですけど。
向井地 そうですね……ソロコンが終わってからの私は、全然成長できていないと思っているんです。
――あー、生誕祭でも話していましたね。
向井地 立ち止まっているなと強く感じています。今は考える時期なのかなって。
――でも、向井地さんがドラマ内でヒールターンしたというのは、何かのきっかけになるんじゃないかなって思っているんです。
向井地 私もヒールの役をいただいたことはある意味感謝しているんです。自分の殻を破るんだって言われていることはわかっているので。
――さすが勘がいいですね。
向井地 でも、AKB48の活動に関しては立ち止まっているなぁと思います。
――あとは、そのきっかけをどう活かすかということですね。
向井地 そうですよね。AKB48でもそのきっかけを起爆剤にできればいいんですけど……。じゃあ、具体的に何をすればいいのか、わからない状態なんです。
――生誕祭でも話していましたが、19歳という年齢に達して、人生で初めて焦りを感じているとか。
向井地 今までは時問なんていくらでもあるんだと思っていました。人生もまだまだ先が長いんだと思い込んでいて、深刻に考えたことはなかったんですけど、19歳になってから、「あれ?自分って意外と時間がないんだ」と思うようになりました。「人生で」というより、「AKB48人生で」っていう意味ですね。
――人生は無限に時間があるっていうのは、世の女子高生が抱きがちなやつです。
向井地 それです(笑)。子供の頃からずっとそう信じてきたんですけど、現実の世界で時間が無限にあるなんてないんだなって。このままだと何もしないまま20歳になっちゃう……。
――立ち止まることなく、すーっと前に進んで行くのが理想なんでしようけど、なかなかそうもいかないのが現実です。
向井地 AKB48に入って4年ぐらい経ったんですけど、これまではありがたいことに、割りとまっすぐに進めてきたと思うんです。でも、ここにきて初めて停滞しているなと感じていて。
――どうしてそう感じるんでしょうね?
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